DIとは
DIは『ダイレクト・インジェクション』の略で、DI機能のみに特化した機器のことを『ダイレクト・インジェクション・ボックス』または『ダイレクト・ボックス』と呼びます。
近年ではそのまま「ディーアイ」と呼ぶことも多くなりました。
パッシブ楽器をミキサーなどの機材に直接つなぐと『インピーダンス(←別の記事で解説します)』のバランスが悪く、ノイジーであったり、ハイ落ちしたりします。
それを解消するために開発されたのがDIです。
最近では、DIを使わずともそのまま入力できるDI(Hi-Z 入力)付きのミキサーやプリアンプも増えて、レコーディング等の現場では少しだけ出番が減ってきたようにも感じます。
しかし、ライブの現場や、ベースでアンプ音とライン音を同時に扱うような現場では、ほとんどの場合でDIは使われています。
インピーダンスとは(1)
DIを語る上で、インピーダンスを理解することは避けて通れない道です。
ベーシストとしてはDIやインピーダンスを理解することで、自分に合った最適の機材、セッティングを探す近道になることは間違いありません。
とはいえ、インピーダンスは電気的な専門用語を使わないとなかなか説明しづらく、そうなると理解もしづらいので、インピーダンスについて理解をウヤムヤにしていまうベーシストも少なくないと思います。
今回は難しい言葉をつかわず、イメージだけで解説します。ですので、もっと専門的に詳しく知りたい方は後でご自分で勉強してみることをオススメします。
前置きが長くなりました。
インピーダンスについて解説します。
まずは水を流すホースの太さをイメージしてみてください。
水が実際の『音』だとします。
ホースが太いと、水とホースの隙間が大きく、その隙間にノイズなどが乗りやすくなってしまいます。
この、ホースが太い状態が『ハイインピーダンス』と呼ばれるものです。
太いホースが更に長いとその分だけ隙間も大きくなるので、ノイズの量も多くなります。
一方、水との隙間が狭い、細いホースをイメージしてください。
隙間が狭い分、ホースを長くしても比較的にノイズの影響を受けにくいです。
これが『ローインピーダンス』と呼ばれるものです。
ハイインピーダンスの状態で、長い距離をケーブルで繋ぐと音が劣化するのに対し、
ローインピーダンスの状態では比較的に音質を保ったまま伝送することが出来ます。
インピーダンスとは(2)
パッシブ楽器は総じてハイインピーダンスです。
そのままミキサーなどの機材に入力してしまうとインピーダンスが合わずに音が劣化します。
これは、機材側の入力インピーダンスが楽器のハイインピーダンスより低い為に起こります。
また水とホースのイメージで解説します。
太いホースを、細いホースに繋いでしまうと出口と入口の穴の大きさが合わず、水がこぼれてしまいかねません。
水をうまく流すには、ホースの太さを合わせる必要があります。
その為に使われるのが『DI』なのです。
DIは、楽器からの太いホースを細くし、出口と入口の穴の大きさを適正な状態にすることが出来ます。(インピーダンス変換)
そうすることにより、水がこぼれることなく伝わります。(音質劣化が起こりにくい)
更に、ホースが細くなったことで、長い距離をノイズの影響を受けずに伝送することが出来ます。
DIを使って楽器の「高いインピーダンス(ハイインピーダンス)」の信号を低くして(ローインピーダンスにして)、機材に入力する為の適正な(ノイズに強い、劣化の少ない)信号にするということです。
DIの役割
DIはインピーダンス変換の他にも大事な役割があります。
以下にまとめます。
・ハイインピーダンスからローインピーダンスへの変換
・フォンプラグからXLRプラグへの変換
・アンバランス転送からバランス転送への変換
・グランドリフト(グランドループによるノイズ除去)
・スルーアウト(ライン音、アンプ音の同時出力の為)
機種によって他にも機能をもつモノもありますが、DIの基本的な役割は上記のとおりです。
電気的な説明が必要なものがいくつかありますが、DIとは意外と重要な機材なのだということが分かると思います。
パッシブDIとアクティブDI
DIにはパッシブとアクティブが存在しています。
それぞれ構造と信号の変換方法が違います。
パッシブDIは『トランス』という部品によりインピーダンス変換、バランス転送変換をおこないます。
入力インピーダンスをあまり高く出来ない為、音色がマイルドになる傾向があります。
電源を必要とせず、野外など場所を選ばずどこでも使うことが出来ます。電源ノイズに悩まされることもありません。
アクティブDIは様々な構造を持ち、設計次第ではトランスを使わずに筐体を小さくすることも出来ます。
その為、大きなモノからポケットサイズのモノまで多様です。
電源が必要なため環境は多少選びますが、ファンタム電源、電池などをはじめ、電源供給の手法も機種によって様々です。
現在ではアクティブDIが主流で、実にたくさんの機種があります。
それぞれに音の個性、機能の個性があるので自分のお気に入りDIを探すのもまた楽しいかもしれません。
DIとプリアンプ
昨今ではDI機能付きのプリアンプが各社から発売されています。
DI機能付きプリアンプは、プリアンプとDIの良い所を掛け合わせたとても使い勝手のよい機材です。
定義としては、アンプへ繋ぐ通常のアウトプットの他に、ラインアウトとしてXLR出力がついているプリアンプを指します。
プレイヤーによっては、必ずプリアンプで音を加工してからミキサーに送るという人も多いと思います。
そういう場合、プリアンプとDIが一つになっていることにより、セッティングの手間が省けたり、機材の数量を減らしてトラブルを回避するという利点が生まれます。
定番のDI機能付きプリアンプは優秀なものが多く、DI機能を使わずにプリアンプとしてのみ使用するプレイヤーも多いです。
DI機能付きプリアンプの欠点
とても便利なDI機能付きプリアンプですが、欠点もあります。
それは、外部エフェクターを使用する際の問題です。
プリアンプは一般的に、楽器の次に接続されます。
もし、他のエフェクターも使うのであれば、
【セッティング例1】
《楽器》
↓
《プリアンプ》
↓
《エフェクター》
という順番に接続します。
(歪み系やフィルター系はプリアンプの前に接続されることもありますが、空間系やモジュレーション系はたいていプリアンプの後です。)
ここにDIやアンプ、ミキサーなどを使用すると、
【セッティング例2】
《楽器》
↓
《プリアンプ》
↓
《エフェクター》
↓
《DI》→《ミキサー》
↓
《アンプ》
上記のとおりDIでアンプとミキサーへ信号を分岐させます。
一方、DI機能付きプリアンプを使用すると、
【セッティング例3】
《楽器》
↓
《DIプリアンプ》→《ミキサー》
↓
《アンプ》
というように、エフェクターの入る余地がありません。
この場合、
エフェクターを使用する場合は、DI機能付きプリアンプのDI機能を使わずに、【セッティング例2】のように別途DIを用意するか、エフェクターの後にDI機能付きプリアンプを接続するしかありません。
エフェクトループ機能が搭載されている機種は問題ありませんが、ループ機能のないプリアンプの場合はこの悩みが発生します。
それがDI機能付きプリアンプの欠点といえるでしょう。
ベースアンプのDI機能
近年発売されたベースアンプの現行モデルには、ほとんどの機種にDI機能が付いています。
正確にいうとXLRアウトが設置されていて、アンプに入力された信号をアンプ内で分岐して、ラインアウトとしてミキサーに送ることが可能です。
この場合、
《ベース》
↓
《ベースアンプ》
↓
《ミキサー》
というように、かなりシンプルなセッティングを作ることが出来ます。
さらに、アンプのプリアンプ部で作った音をそのままラインアウトするか、プリ部の設定をスルーしてラインアウトするかを選択することも可能で、かなり柔軟に対応することが出来ます。
セッティングをシンプルにしたい人にはオススメです。
持ち込みDIの使用について
DI使用の実情について、プリアンプやベースアンプのDI機能ではなく、DI単体が使われる現場が圧倒的に多いです。
ライブ、レコーディングどちらもそうです。
それはDI単体を使うことが、現在、業界の一番ポピュラーでスタンダードなセッティングとして認識されていて、プレイヤーとエンジニアの双方向で理解することが容易なセッティングだからです。
もちろん、プレイヤー側からの提案で好みのセッティングにすることは可能です。
しかし、エンジニアが把握していない機材や機能をプレイヤー側の提案で使うということは、トラブルが起きた時、実際にその対処に追われるエンジニアにはとてもリスクのあることなのです。
ですから、自分の持つ機材については誰よりも詳しくなる必要があると思います。
持ち込みDIでライブをする場合は、しっかりとした知識もライブハウスに持って行きましょう。
ベーシストはDIを持つべきか
筆者の個人的な意見としましては、プロベーシストでない限り、単体DIを持っている必要はないと考えています。
それは、ライブハウスには必ず無料で使えるDIがありますし、ベースアンプにもラインアウトがあるので、DIが無くて困る場面はないと言い切れるからです。
ただ、持っている必要のない機材について知識を持つことは困難ですし、自分の好みの音を追及したいと思っているベーシストにはDIは避けて通れない道だと思います。
しかし、DIの音を聴き比べるのはとても難しいです。
録音したものを聴き比べるのが有効ですが、店頭でじっくりやるのも根気がいります。
筆者もこれまでいくつDIを渡り歩いてきたか数えきれません(笑)
ライブハウスで持ち込みDIを使用する際も、アンプの出音が爆音すぎると、外のメインスピーカーのライン音を0にされてしまうこともあります。
それではせっかく持ち込んだDIの意味は殆どありません。
レコーディングでは曲によりDIを選ぶこともありますが、楽器を変えたりイコライジングを変える方が圧倒的に変化が認識できます。
そもそも、アンプ音をメインにするか、ライン音をメインにするか、または、何かの保険として一応ライン音も録音するのか、エンジニアさんによる部分がかなり大きいです。
それでも、「DIを持ち込む事は無駄になるかもしれない、でも、自分のDIで責任を持って音を出すんだ!」という確固たる意志がある人、
もしくは、「とにかくDIを持ってみたいんだい!」って人は、
定番DIの他に、スルーアウト(アンプアウト)付きの『マイクプリアンプ』を探してみることをオススメします。高価ですがきっと一生使えます。
あなたが最高のDIに出逢えますように。